拠点構想と目的

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新パラダイム「統合物質科学」の構築

1.背景と認識

化学は、これまでに物理化学、分析化学、無機化学、有機化学、高分子化学、・・・ 材料科学(化学)などの分野に分かれ、同時に基礎と工学(応用)という分類のもとで発展を遂げてきた。現在の大学の部局あるいは教育カリキュラムも、これらの伝統的分野・分類に基づいて組織・構成されている。一方、21世紀の化学・材料科学では、ある微少な原子・分子が基礎化学で発見されると、直ちにそれらが合成され、性質と機能が解明されて、マクロな新物質・材料を生み出すように、各専門分野間あるいは基礎と工学の伝統的境界は急速に狭まり消滅しつつあり、異分野の有機的統合が教育研究の新たな潮流となりつつある。また、大学や研究機関に対して、狭い分野に閉じこもる「タコ壺的」教育・研究や人材が批判的に指摘されて久しい。

同時に、最近の学術会議や総合科学技術会議の諸提言に見るまでもなく、環境、エネルギー、地球温暖化、持続性社会など、科学・化学の地球的な諸問題が顕在化しつつあり、これらの複雑で複合的な課題に対しては、もはや従来の狭い専門分野だけでは対処できず、幅広い化学と材料科学の横断的で統合された新たな視点をもち、国際性豊かな自立した次世代研究者の育成と、これら諸問題に貢献する「社会のための科学」の創出が強く求められている。

2.目的と構想

本拠点は、このような背景と認識に立ち、化学の伝統的境界および部局を越えて、基礎化学から材料科学・工学までの教育研究を統合する、新たなパラダイム「統合物質科学」を創出し、次世代育成の国際教育研究拠点の構築を目指すものである(図1)。

本計画では、京都大学の工学研究科(化学系6専攻・材料工学専攻)、理学研究科(化学専攻)、および化学研究所(化学関連5研究系・3センター)に所属する、化学と材料科学に関するすべての研究グループが拠点を形成し(京大化学の総力結集)、それらに所属する19名の事業推進担当者を中心に、拠点形成事業を実施する。さらに京都大学には、農学研究科、薬学研究科などの部局にも優れた化学関連研究グループが存在するが、将来的にはこれらとの連携も視野に入れることになろう。

とくに、これらの目的を達成するため、下記のプログラムを実施する。

1) 新パラダイム「統合物質科学」創出のための国際教育研究拠点の構築
2) 「統合物質科学」を担う国際的競争力ある次世代研究者の育成

3.「統合物質科学」の概念と統合分野

「統合物質科学」(integrated materials science)とは、すでに強調したように、従来の化学における伝統的分野を「超えて」、あるいは基礎と工学の境界を「統合して」、より広く新たな視点から、化学と材料科学を複眼的に包含する、いわばシームレスな化学を指している(図1)。
すなわち、分野を超え(基礎化学から材料科学まで)、次元を超え(分子から未来物質・材料へ)、国境を越え(国際的視点、頭脳流入)、そして学を超え(社会への貢献)、新たな化学・材料科学を創設し、同時に世代を超え(次世代育成)国際的で力強い人材を育成する国際教育研究拠点の構築を意味している。

図1「統合物質科学」:化学、材料科学における新パラダイムの創出
図1. 「統合物質科学」: 化学、材料科学における新パラダイムの創出

本計画の特徴の一つは、この新パラダイムの創出のために、従来の分野・境界を横断的・有機的に統合した次の4つの「統合分野」(integrated core fields)を設置することにある(図2)。図2は、これらの統合分野の概要を対象とする具体的課題および物質・材料の大きさ(次元)を尺度として示し、同時に、従来の化学の伝統的分野との相関を示している。
また、分野(4)物質相関科学は、社会のための化学を目指す新たな視点でもある。

(1) 物質変換・反応 ( Material Transformation )
分子設計、物質変換、精密合成、反応工学
(2) 物質物性・特性 ( Material Properties )
化学・電気・光・機械的物性解析、統合先端材料特性評価
(3) 物質高次機能 ( Advanced Material Functions )
エネルギー・情報変換、機能発現、材料創成、自己組織体、高分子物質、高次自立集合体(分子生物化学)
(4) 物質相関科学 ( Interactive Materials Science )
・ 物質内・物質間相互作用 階層間相互作用、界面、協働・協調
・ 対外界相互作用 材料と外部環境との相互作用
・ 社会-物質科学相関 安全・安心のための化学、文化財保護の化学、物質ライフサイクルの化学
図2 統合物質科学における4つの統合分野
図2. 統合物質科学における4つの統合分野